Salesforce World Tour Tokyo 2019 レポート

セールスフォース・ドットコムと言えば、ビジネスアプリケーション市場におけるトップ企業の1つであり、顧客関係管理(CRM)や営業支援システム(SFA)といった分野での高い人気を誇る製品を手掛けている。そのセールスフォースの年次カンファレンス「Salesforce World Tour Tokyo 2019」が今年も9月25日、26日の両日にわたって開催された。初日の午前中に実施された基調講演のようすを中心に紹介しよう

 

トレイルブレイザー(先駆者)という存在

「A Celebration of Trailblazers ~Trailblazerが描く、新しい成功のカタチ~」と題した基調講演の口火を切ったのは、株式会社セールスフォース・ドットコムの会長兼社長の小出伸一氏だ。1999年に創業したセールスフォースにとって、今年は20周年にあたる。小出氏によれば、その記念すべき年に開催されるこのイベントは、参加者(登録者)が1万2000人を超え、2日間で200以上のブレイクアウトセッションが実施されるという大規模なものとなった。また小出氏は、セールスフォースにとって日本は最初に海外の支社を開いた国であり、重要な拠点であるという。実際、国内で盛んに言われている「働き方改革」についても、まずはセールスフォース社内で率先して実践をしているそうだ。

基調講演を始める小出伸一氏

今回のイベント全体で強調されているキーワードがトレイルブレイザー(trailblazers:先駆者)だ。アメリカの西部開拓時代において、道標もない大地を切り開いていった人々を指す言葉だ。またセールスフォースの用語的には、セールスフォースの製品を利用して顧客との関わり合い方を常に向上させていくユーザー企業とその担当者という意味を持つ。トレイルブレイザーはエンジニアに限らず、たとえば営業職のトレイルブレイザーも存在する。

ここで小出氏は実際のトレイルブレイザーとして、株式会社ユー・エス・イーの新美啓子氏を紹介した。セールスフォースについて「人生を豊かにしてくれたきっかけ」と語る新美氏は、トレイルブレイザーになるためのきっかけとしてコミュニティとの関わりを挙げた。新美氏はコミュニティに加わることでトレイルブレイザーとしての知見や知識が増え、今ではイベントの運営にも関わっているという。

製品情報をユーザー自身に語ってもらう

さまざまな商品やサービスが選択できる昨今、それらを提供する企業が美辞麗句のセールストークを展開しても、ユーザーは簡単には受け入れてくれない。その点、実際に使っているユーザーによるメリットの説明(時にはデメリットも)を受けることは、新規のユーザーにとって有用な情報となる。先輩ユーザーをトレイルブレイザーと位置づけて、ユーザー間の交流を促すというマーケティングの手法は、「口コミ」による評価が重視される現代における強力な仕組みと言える。もちろん製品のクオリティに強い自信がなければ、この手法は使えない(悪評ばかりが伝わっては逆効果)わけだ。セールスフォースが、創業20年という短期間でここまで大きくなった秘密を垣間見た気がした。

ここで新美氏には特別なトレイルブレイザージャケットが贈呈されたが、プレゼンターとして登場したのは米セールスフォースの創業者兼CTO(最高技術責任者)のパーカー・ハリス氏。そして、その流れでハリス氏がスピーチを開始した。

新美氏に特製のトレイルブレイザージャケットを贈る、CTOのパーカー・ハリス氏

進化を続ける製品群を紹介

米セールスフォースのCTOであるハリス氏は、まずセールスフォースの学習用プラットフォームTrailheadの紹介から始めた。Trailheadは、営業、マーケティング、開発者といった職種ごとに必要な分野の学習を進められるサービスで、無料で提供されている。

続けて取り上げたのが、Customer 360だ。Customer 360は、セールスフォースのさまざまなサービスやアプリケーションから得られるデータを一元的に管理し、一貫性のあるユーザーエクスペリエンスを提供するためのツールだ。

Customer 360(Kubota版)のスクリーンショット

ユーザーとの関係性を向上させ続けるため、Customer 360も進化しているとハリス氏は語った。さらに近々(2019年10月を予定)提供開始される新たな業界別ソリューション「Consumer Goods Cloud」「Manufacturing Cloud」を紹介した。名前が示すとおり、Consumer Goods Cloudは消費財を扱う企業の主に店頭での施策を改善するソリューション、Manufacturing Cloudは製造業の営業部門と業務部門の効率向上を図るソリューションである。

UIのメインであるCustomer 360、バックヤードで動く各種のソリューションのいずれもが進化を続けていることを訴えたのち、ハリス氏は再びマイクを小出氏に渡した。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の典型

ここで小出氏が取り上げたのは、セールスフォースを用いてデジタルトランスフォーメーションを進めている企業2社の事例だ。1社は株式会社三越伊勢丹ホールディングス、もう1社が株式会社クボタだ。いずれも東証一部上場の企業であり、長い歴史を誇っている。伝統ある日本企業の代表格とも言える両社だが、トレイルブレイザーとなってデジタルトランスフォーメーションを目指しているというわけだ。

三越伊勢丹のCEOである杉江俊彦氏は率直に、「単純なeコマースでは1900円のTシャツは売れても、三越の店頭で扱っているような1万9000円のTシャツは売れなかった。オンラインでも店頭と同レベルの顧客対応が必要であることに気付いた」と語る。さらに店頭での顧客体験をより高いものにするために、リアルの店舗でも買える必要があったという。その一例として靴のコーナーでの足型の測定を挙げ、従来は30分から1時間かかっていたものを、3Dで測定するシステムを導入し、30秒で完了するようにしたそうだ。

杉江氏は三越伊勢丹を小売業から「小売もできるIT企業」へと変革するという目標を掲げ、顧客とのつながりをセールスフォースによって向上させたいと語った。

三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦CEO

来年に創業130周年を迎えるクボタの吉川正人氏は、まず日本の農家の現状を語るところから始めた。人口減少に伴い、これまでのような家族主体の小規模な農家から、広範囲の農耕地を事業として扱う「プロ農家」とも呼ばれる方々による運営形態が登場してきている。プロ農家は事業として農業に取り組んでおり、クボタは販社と一体になって人と農業のデータをつなぐことを目指しているそうだ。

吉川氏が紹介する「人と農業のデータをつなぐ」事例は非常に興味深く、ふだん農業とは無縁の生活をしている者にとっては驚くべきものだった。たとえば、過去に販売したコンバインの状態を分析し、買い替え時期と推奨される代替機種を選んで販社に情報を提供しているという。またトラクターが故障したという情報は、近場の販社にエスカレーションされ、対応するエンジニアの割り当て、パーツ交換で減少した在庫の補充まですべてセールスフォース上で完了するという。

吉川氏はクボタの事例を遅れている部分もあると謙遜しつつ、現在提供している価値についてはより低コストに、まだ提供できていないユーザーが必要とする価値を提供できるようにしていくと語った。

クボタの吉川正人社長

DXの推進が日本企業の課題

デジタルトランスフォーメーションという切り口で見た場合、残念ながら日本の変化は決して進んでいるとは言えないだろう。今や国内の企業は規模の大小や業種を問わず、デジタルトランスフォーメーションが求められているが、そのための心強いサポーターがセールスフォース、そしてトレイルブレイザーたちだと認識させた基調講演だった。