Google Cloud Next ’19 in Tokyo レポート

Googleが志向する未来のコンピューティング環境

2019年7月30日から8月1日にかけて、真夏の東京でGoogleクラウドのイベントGoogle Cloud Next ’19 in Tokyoが開催された。3日間の会期を通じて、多くのセッションや講演が行われたが、その中でも最もこのイベントが開かれた理由を感じさせるものとして、31日の朝から行われた基調講演のようすを紹介しよう。

Google Cloud日本代表 阿部伸一氏

2時間の長丁場となった講演は、Google Cloudの日本代表である阿部伸一氏の「かつてないクラウドを体験しよう」という呼びかけから始まった。

多くのGoogleのエグゼクティブ、ソリューション・パートナー、そして既にGoogleのクラウドを利用している顧客企業の代表などが代わる代わる登壇し、盛りだくさんの内容となった。その中でGoogleが示した今年のテーマは次のようなものだった。

・グローバルコンペティションは止まらない

・競争を勝ち抜くためにはデジタルトランスフォーメーションという進化が必要

・エンジニアはモダンなコードを書き続けるべき

そのうえで、「エンジニアがコードを書くことに集中できるように、それ以外のことは全てGoogle Cloudが提供する」。これが今回の基調講演の大きな流れであり、Googleが最も訴えたいポイントである。以下、それぞれの項目について、より細かく見ていこう。

デジタルトランスフォーメーション時代の生存戦略

グローバリズムが世界中を覆い尽くす現在、企業はかつてのように国内のライバル企業だけを気にしていれば良いわけではなく、競争相手は世界中にいる状態だ。それどころか、デジタルディスラプションにより、これまでは競合とみなされていなかった業種とも競争を強いられているというのが現状といえる。

このような厳しい競争を勝ち抜いていくために、企業は進化を遂げる必要がある。それがデジタルトランスフォーメーションである。商品の製造から販売まで、全てのフェーズにおいてデータを取り、それを元に分析し、より良い方向に進めるための仮説を立て、改善を志向する。この一連のステップをなるべく速く、しかも繰り返し行うことで、前に進み続けるのがデジタルトランスフォーメーション時代の企業の生存戦略である。

そして顧客に対してはエクスペリエンス向上のため、サービスは日々進化させる必要がある。そのためエンジニアは、これまで以上のペースでモダンなコードを書き続ける必要がある。

従来エンジニアは、コードを書くという主たる業務の他に、それに付随する業務、例えばオンプレミスであればハードウェアの手配、開発環境のセットアップ、ハードウェアの故障時の対応といったことも要求されていた。これらの業務はもちろん主たる業務を支えるために重要なことだが、Google Cloudを活用することで、エンジニアはこれらの業務から解放される。エンジニアはコードを書くことに集中できるように、その他の全てをGoogle Cloudが提供するというわけだ。

新たなアプリケーション管理のプラットフォーム「Anthos」

Google CloudのVPイヤル・マナー氏

Google Cloudのエンジニアリング、クラウドサービスプラットフォーム部門のVP(バイスプレジデント)であるイヤル・マナー氏は、「企業の未来はマルチクラウド、ハイブリッドクラウドにあり、ライバルに先んじるためには最新の技術を使う必要がある」と語る。

その一方でマナー氏は、いまだにビジネスワークロードの80%がオンプレミス上にあると言う。確かにオンプレミスから全てをクラウドに持っていくのは、決して簡単なことではない。確実にクラウドへの移行を実現するためには、段階的なステップが必要となるだろう。

それをサポートするための新しいアプリケーション管理のプラットフォームが「Anthos」だ。Anthosは、2019年4月のサンフランシスコで開催されたGoogle Cloud Next ’19で公開されたもので、マネージドKubernetesのGoogle Kubernetes Engine(GKE)をはじめとする複数のコンポーネントから構成されている。

Anthosの概要(https://cloud.google.com/anthos/docs/concepts/anthos-overview?hl=ja

Anthosではアプリケーションの開発・デプロイを、オンプレミス/クラウドのいずれでも行える。さらにマルチクラウドにも対応しており、Google Cloudだけでなく他社が手掛けるクラウドサービスにも実装可能だ。実際、デモではAWS上のワークロードをAnthosから管理するようすを見せていた。同様に、Anthosはプライベートクラウドやオンプレミスの環境であっても対応することができる。

この点は、ソリューション・パートナーとして登壇したNTTコミュニケーションズの第五営業本部長である工藤晶子氏も強調した点だ。同社ではAPAC地域で初めてAnthosを活用した企業であり、音声認識や自然言語処理のCOTOHAの基盤などに用いられているそうだ。

NTTコミュニケーションズ第五営業本部長 工藤晶子氏

工藤氏によれば、日本国内の企業は、セキュリティの関係でパブリッククラウド上にデータを持ち出させないところも多いが、Anthosであればオンプレミスやプライベートクラウド上でも運用可能であり、デジタルトランスフォーメーションの進行度合いにかかわらず利用できる点に強みがあるという。

Anthosはオンプレミス上の既存のアプリケーションをそのまま、マネージドKubernetes上のモダンなアプリケーションへと移行させられる。しかもオンプレミス/クラウドを問わず利用可能で、既存のリソースを無駄にすることなくモダンなIT環境への移行が実現できるというわけだ。

SQL ServerもActive Directoryもクラウドへ

ビジネスで用いられるソフトウエア・アプリケーションは、いわゆるLinux系のものばかりではない。データベースにはMicrosoftのSQL Serverが使われていることもあるだろうし、ユーザーやリソースの管理にActive Directoryを使っている場合も多いだろう。

Google Cloudのデータベース部門プロダクトマーケティングマネージャのエイミー・クリシュナモハン氏は「基幹業務システムをクラウドに移行する会社も現れ始めている」と語り、そこで使われているSQL Serverはフルマネージドの「Cloud SQL for Microsoft SQL Server」を用いてクラウドへの移行を実現しているという。

実際のデモでは、アプリケーションのバックエンドDBを、オンプレミスからクラウド上にわずかな手数で切り替えて動作させるようすが紹介されていた。

さらにManaged Service for Microsoft Active Directoryも、提供が予定されているという(本稿執筆時点ではアルファ版)。「うちはMicrosoftのシステムが多いのでクラウド移行が困難」というエクスキューズが通用しない時代も、もうすぐそこまで来ているといえるだろう。

Googleの隠された野望が見えた?

「クラウドかオンプレミスか」という議論の際には、「全てのワークロードをクラウドに持っていけるわけではない」という言葉がオンプレミス派から発せられ、クラウド派もそれを認めるといったやり取りが行われがちだ。だがもしかしたらGoogleは「いずれほとんど全てのワークロードはクラウドに持っていける」そう考えているのではないか。もちろんそこまでの道のりは業種や地域により異なり、進み方が速いところも遅いところもあるだろう。それでも、いつかはあらゆるビジネスワークロードがクラウド上に移る。Google Cloud Next ’19 in Tokyoの基調講演は、Googleの隠された野望を感じさせてくれた。